産業用繊維の中には我々の身の回りにあるのに、「繊維製品」として意識されないものがあります。たとえば不織布(注4)、複合材料、人工皮革です。
(1)不織布
図3をご覧下さい。近年、日本の繊維産業が縮小する(増加傾向の産業用繊維や不織布自身を含む)中で、不織布は成長を続け、2006年には過去最高の生産量に達しています。この不織布、実はあちこちにあります(表1)。身近なところではお茶パックやクリーニング済み衣料の包装などに見られる、あの、布のような紙のような素材です。「紙」おむつ、ウエット「ティッシュ」など他の素材の名で呼ばれてきたのが知名度の低い一因でしょう。不織布は用途に応じて様々な機能を持っています。例えば手術用の布にはバクテリアや血液の飛散を防ぐ機能が必要ですし、耐熱性の必要な高温での集じんにはガラス繊維やフッ素繊維の不織布が用いられます。精密な機械をつくる現場では、ミクロのほこりを取り除くためのエアフィルタ� �やワイパーに不織布が用いられます。
リードスクリューは、どのように見える
では不織布は普通の「布」とどう違うのでしょう?通常の「糸」は1本の繊維ではなく、多数の細かい繊維を集めたものです(糸のほつれた部分を思い出して下さい)。それを織ったり編んだりしたものが「布」です。不織布では糸の状態を経ずに、細かい繊維を、熱・接着剤・かぎ針・水流などを使ったり、融けた素材をノズルで噴出してコンベア上で成形したりして、いきなりシートにします。この結果、織物や編物を使った製品に比べて製造工程が短い→生産性が高く、人件費も含めたコストが小さい 隙間が細かく、表面積が広い→フィルター、ワイパーとしての機能が高い といった特徴が生まれます。
表1 不織布の用途例
ベンチトップの半導体製造装置
用途 | 製品 |
---|---|
医療・衛生 | ドレープ(手術用布)、各種マスク、ガーゼ、生理用品、紙おむつ、ウエットティッシュ、貼薬基布、携帯カイロ、保冷シート |
土木・建築 | 補強材(盛土、地盤、建造物)、排水材、ルーフィング材 |
生活・サービス | 掃除用ワイパー、包装材、ドリップシート、お茶パック、おしぼり、水切り袋、業務用ワイパー、クッキングペーパー、化粧雑貨 |
自動車 | 天井材、トランク材、吸音材、エアフィルター、オイルクリーナー |
その他産業用 | 集じんフィルター(工業、焼却炉)、空調フィルター(建物、作業用)、液体フィルター、工業用ワイパー、研磨材、電池セパレータ、CD収納、農業用シート |
インテリア | カーペット基布、壁装材、クッション材 |
衣料 | 芯地、肩パット |
資料)日本不織布協会、各社Web。
(2)複合材料
次は複合材料です。複合材料とは、ガラス繊維や炭素繊維で補強された樹脂(プラスチック)を指します。
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複合材料は「軽く、強く、錆びない」性質をいかして様々な分野で使われていますが、ほぼ全量が「産業用」です。コストの安いガラス繊維は、最も広く使われている複合材料用繊維です。日本では住宅向け中心でしたが、建築、自動車、電子部品等でも製品開発が進んでいます(表2)。光ファイバーの多くも一種のガラス繊維ですし、断熱材や音響絶縁材に使われるガラス短繊維もあります。
表2 ガラス繊維複合材料の用途例
分野 | 用途例 |
---|---|
住宅 | 浴槽、浴槽ユニット、浄化槽、断熱材 |
建設 | ドーム建造物屋根材、壁補強材、彩光素材、型枠、耐食性パイプ |
機械 | 舟艇、自動車モジュール、航空機・列車内装、パソコン筐体、プリント基板 |
その他 | 耐食性タンク、風車ブレード、カーブミラー |
資料)ガラス繊維協会Web、強化プラスチック協会「ここにも、あそこにもFRP」他。
炭素繊維はきわめて高い水準で軽さと強度を合わせ持っていますが、高価なので以前はスポーツ向け高級品や航空機の一部に限られていました。ところが近年になって航空機の構造材に広く使用されるようになり、機械・建築・エネルギーなどの用途も急速に広がり (表3)、量的にも拡大しています(図4)。価格次第ですが、燃料効率改善の要求から、今後、自動車での使用が広がるといっそうの需要拡大が期待されます。
表3 炭素繊維複合材料の用途例
分野 | 用途例 |
---|---|
スポーツ | ゴルフシャフト、釣竿、テニスラケット、自転車部品 |
航空・宇宙 | 航空機構造材、ヘリコプター、ロケット部品、人工衛星部品 |
機械 | X線装置、振動板、工業用ロール、搬送用アーム、自動車部品 |
その他 | 耐震補強(橋梁、建物)、ケーブル、圧力容器、風車ブレード、装飾小物 |
資料)炭素繊維協会Web、強化プラスチック協会上掲資料他。
現在、量的に多いのは強度=「壊れ難さ」に優れるPAN系炭素繊維ですが、剛性=「変形し難さ」に優れるピッチ系炭素繊維も、工業用大型ロールや大型ガラス基板搬送アームなど「たわみ」や「振動」を避けたい工業部品に利用されています(注5)。
図1のところで、「ガラス繊維や炭素繊維は図にない(化学繊維・合成繊維に含まれない)」といいましたが、これらは産業分類では「繊維」にも入らずに、「窯業・土石」(セメント、板ガラスなど)に含まれます。さらに繊維そのままで製品になることはなく、強化繊維として樹脂と組み合わされて「複合材料」に加工されます。「複合材料」は、まず繊維に見えませんし、産業分類では「プラスチック製品」に含まれます。また前述のアラミド繊維も、しばしば複合材料に加工されて利用されます。
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